アイイロの巣穴

中央からはずれてほそぼそ生きてる女の読書やドラマの感想ブログ

女性が主人公ならフェミニズム的にOK?否。『蓮丈那智フィールドファイル』感想

はじめに

 どうも、ブログ筆者の藍色です。筆者はミステリ小説がとても好きです。特に探偵役が女性だと嬉しいし、単に探偵や刑事という役職の人物が事件を解決する物語よりも、違う職業の人物が解決するパターンだともっと好みです。更に昆虫学や民俗学社会学等のエッセンスが入ってると本当にツボです。なので、今回紹介する『蓮丈那智シリーズ』を筆者は非常に楽しみにしていました。んが、作中のある描写のせいで凄くがっかりしました…。ミステリ+民俗学という構成は凄く良いんですけどね…。

 

『蓮丈那智フィールドファイル』シリーズについて


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 平たく説明すれば、カテゴリーはミステリ+民俗学。主人公は蓮丈那智という女性の民俗学者。語り手はその助手。蓮丈は民俗学者のなかでも「異端」という設定。外見も日本人離れしている。物語は、民俗学の調査に行った先で事件が起こるという流れです。

 シリーズは全5作で完結。今回筆者が読んだのはシリーズ一作目の『凶笑面』です。

 

民俗学要素

 民俗学をちょっとでも興味を持って調べたり読んだりした人には「定番」とも言えるネタや解釈がしっかり盛り込まれていて、民俗学が好きなら十分に楽しめると思います。例えば、聖徳太子はイエス説など(どちらも馬小屋で生まれてる話がありますよね)。

 民俗学に興味が無いなら、ひたすらなんのこっちゃとなるか難解か。Am○zonのレビューだと民俗学要素が難しいと感じる人が多い印象ですが、ホラーゲームの零とかをプレイしたことがある人なら全然問題なくついていけるかと思います。民俗学と絡めた仕掛けも面白い。ドラマ『TRICK』を彷彿とさせる雰囲気があります。

 

女性の描き方について

 これがネック。まず蓮丈の容姿に対しての言及が多すぎる。いくら「異端さ」を演出したいからといっても、そこに美貌がどうのこうの書く必要性は無いし、「異端な女性キャラ」の特徴として「容姿」以外に描けないのであればそれはセンスが無いとしか言いようがないです。小説の解説によれば「シャーロック・ホームズの女性版を意識してる」らしいですけど、蓮丈のホームズっぽい側面って口調と性格ぐらいだし、別にシャーロック・ホームズって誰もが振り返るイケメン設定じゃないやん!!なんで女性になった途端「美貌」の要素がいるんですかね!??

 特にひどいのが3話目「不帰屋」。読みは「かえらずのや」。この話にはフェミニストのキャラクターが登場するんですが、まぁ、案の定というか死にます()。そして、蓮丈那智フェミニストじゃないというのを表現するシーンではこんな感じで書かれてます。

民俗学をアクセサリー感覚で愛でる女子学生にも容赦ない

うん、こんな短文でもぎっしり凝縮されてるミソジニー、マビで作家♂。民俗学をアクセサリー感覚する女子学生って…いかにもッが考えたような女子学生像だし、フェミニストじゃない女性を描くのに「女子学生に優しくしない」って…なんじゃそりゃ。真面目に学問しない学生に怒るのにフェミニスト関係ないし女子学生に優しくするのがフェミニストでもないしツッコミが追いつかない。

 とにかく「ぼくのかんがえたさいきょうのじょせいみんぞくがくしゃ」感がパないんですよね、筆者はここで完全に心が折れました。

 

女性主人公=フェミニズム

 答えは否、ですね。もちろん、フェミニズムを意識した作品なら主人公は当然女性(female)であるべきです。でもそれと同じぐらい大事なのは、その作品を女性が手掛けることです。今回の作品に限ったことではないですけど、女性キャラの皮被った♂なんてザラにいますよね。

 たとえ物語を進めていく主役が女性であっても、その女性を動かしてるのが♂なら、それは♂の意思を遂行する女性でしかない。キャラクターが女性であっても、生身の女性の意思や考えや生き方がそこには反映されません。当事者の意見は当事者じゃないと発信できないのと同じように、女性は女性にしか描けない。

 

『蓮丈那智フィールドファイル』シリーズはおすすめできる?

 面白いか面白くないかで言えば「面白い」です。文章にも特別読みづらさはなく、ミステリ好きで民俗学にも興味があるなら読んでも大丈夫。ただし述べて来たように「女性キャラクターは登場するけど、女性がちゃんと描かれてるわけじゃない、それどころか侮辱されてる」ので、筆者は読むのをやめました。こう書くと「フェミニズム小説じゃないんだから仕方ない」とか言われそうですけど、フェミニズムを意識したものでもない限りこういう「いい加減な女性像」にぶち当たるのが異常なんですよ。だから私はこういうブログ書こうと思ったんですよね。

 なので結論、ミステリ民俗学としてとても出来はいいけれど、女性の描き方がネックなのでリメイクでもされない限り私はおすすめしません。