アイイロの巣穴

中央からはずれてほそぼそ生きてる女の読書やドラマの感想ブログ

とにかく赤堀涼子の活躍が見たい。『法医昆虫学捜査官』シリーズ感想

はじめに

 どうも、ブログ筆者の藍色です。前回の蓮丈那智シリーズでがっかりしたにもかかわらず筆者はめげずに「女性が探偵役のミステリ」でなおかつプラスアルファの要素があるものを探していました。そして見つけたのが今回紹介する『法医昆虫学捜査官』シリーズです。蓮丈那智民俗学+ミステリだったのと同じように、こちらは昆虫学+ミステリです。

 蓮丈那智との違いは、こちらは刑事がちゃんと(?)関わっていることと、そして作家が女性であること。同じ女性学者が主役のミステリであるのに、書き手が女性になるだけでこんなにも女性の描き方が変わるのかと改めて気付かされる作品でした。だからといって手放しで褒められるかというとそうでもないのですが…。

 

『法医昆虫学捜査官』シリーズについて


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 タイトルの通り法医昆虫学を扱ってるミステリです。法医昆虫学とは、主に死体につく蛆の成長過程を計算して死亡推定時刻を割り出したりする仕事です。事件現場に残される虫の生態系から捜査していくことも。

 物語は法医昆虫学者の赤堀涼子と刑事の岩楯裕也、この両者の視点で進んでいきます。1作目は『法医昆虫学捜査官』、2作目は『シンクロニシティ』、3作目は『潮騒のアニマ』、4作目は『水底の棘』、5作目は『メビウスの守護者』、6作目は『紅のアンデッド』、7作目は『スワロウテイルの消失点』と現在7巻まで続いてます。筆者は3巻目まで読み終え、そしてなぜか飛ばして7巻を読んでしまいました(アホ)。

 1〜2巻目までは岩楯と赤堀の視点が交互に変わって物語が進んでいましたが、3巻目からはそのパターンが終わってて岩楯の視点が多くなっていってます。そして某ドラマみたいに刑事の相棒はコロコロ変わります。

 

昆虫学者の赤堀涼子がとにかく魅力的!

 このシリーズ作品の一番の魅力はやっぱりこれに尽きると考えてます。昆虫学の薀蓄の面白さは言わずもがななので、赤堀涼子の描き方について語りたいと思います。

 まず、赤堀の口調がフラット。わざとらしい「女ことば」で喋らないし、相手によって大きく態度を変えたりしない。次に、性格。虫や他の生き物への愛に溢れているけど、女性規範的な「動植物を愛でる」感じではなく「探究心と情と倫理」の線引きがしっかりしているといった印象。そして弱者への思慮深さも備えている。怒りが必要なところではしっかり怒る。残酷なやり方で標本を作る虫屋(虫コレクター)の胸ぐらを掴んでキレるシーンは筆者のお気に入りです。浅はかなオス達にしれっと間違いを指摘できるのも素敵。そして、容姿。年齢のわりには小柄で童顔という見た目で、基本的に装飾をしない。筆者的にはとてもリアルな女性像だと感じました。

 作中では赤堀は地べたに這ったり穴を掘ったり溝の中に手を突っ込んでまでして虫を探したりして、周囲の男キャラクター達を引かせているけど、これらも女性研究者の赤堀を人間らしく描いていて筆者は好きです。実際、虫を探そうとしたら地べたに這わないと見つからないしね。

 

岩楯裕也及び他の男キャラクターが好きになれるか

 読んでいて一番気になるのはここ。岩楯は筆者的に言えば「オスらしいオス」といったキャラクター。小説についてる解説の言葉では「ハードボイルド小説の主役的キャラクター」だそうです。まぁとにかくあらゆる面で典型的というか、オスが好きそうな男キャラですねと言いたくなる…。

 といっても岩楯はまだ「あぁこういうキャラクターは男性刑事モノでは典型的だもんね〜(棒)」でスルーできるレベルではある。問題は巻ごとに変わる岩楯の相棒達です。1巻〜3巻の男性キャラクターはそれぞれ違う人物ではあったものの、それぞれにストレスはあまり感じないというか所謂「スルーできるレベル」。筆者が一番イライラしたのは7巻目の相棒です。とにかく性格も台詞も言動もミソジニーがヤバい。そして女ぎらいになったきっかけも「いじめられていた自分に唯一関わってくれていた女子が自殺したのが忘れられないから」なの、本当に「悪い意味でリアル」で怖い。筆者自身がそういうタイプのオスを知ってるのでマビで怖い。岩楯がマシに見えるレベル。

 作中の男性キャラクター達のなかで唯一の救いは赤堀の後輩である辻岡大吉というキャラクター。ずっと敬語で、男性らしくサポート役なのもいい。正直、岩楯達を前に出さずに赤堀と大吉だけメインで進めた方がいいんじゃないかと思ってます。

 

女性の描き方について

 前述したように、赤堀がしっかり人間として描かれてるのがとてもいいです。しかし、岩楯との「この二人は恋愛関係になるのか?」的な描写や、人前に出る時に化粧をしてスカートを履くといったコルセットをつけるシーンはちょっとがっかりしてしまう感は否めないです。現代社会に生きる女性がコルセットと無縁のまま生活するのは非常に困難だから、ある意味当然の現実的な描写かもしれませんが、そことあわせて岩楯との恋愛をうかがわせる方向へ行くのは本当に「The コルセット」といった感じで読者としてダメージがありますね…。

 また、7巻では(おそらく初登場は6巻と思われるので、7巻でも?)赤堀とは対象的な容姿の女性が登場します。プロファイラーの広澤春美という女性キャラクターは、仕事ができるうえにタイトスカートにハイヒールに化粧に香水というコルセットぶりで、リベフェミ歓喜的な「強い女」です。装飾をしていない赤堀が広澤の装飾ぶりを細かく観察して、内心で自らと比較する(比較して卑下するわけでもなく、ただ比較してしまう)のは、コルセットを知っている人にしかわからない感覚だと思う。

 

『法医昆虫学捜査官』シリーズはおすすめ?

 ミステリとしては王道といったところなので、法医昆虫学の要素を除くとあまり目新しさは無いかもしれません。けどそれだけ、虫の話や生態系の話だけでも十分に面白くてそこが事件にどんなふうに関わってるのかが知りたくてどんどん読み進めてしまうし、被害者の過去を追う過程には現代社会の様々な問題が取り上げられています。若者支援の名目で人目につかない田舎の施設が使われたり、安楽死が制度化されていない日本で、安楽死を求めた人達が行方不明になったり、ネットで集客ができればなんでもできててしまうような仕組み等。特に、社会保障の脆弱さや福祉業界の、そこに少しでも関わったことのある人なら知ってるあの空気の表現は上手いです。

 でも何より、このシリーズを読めるかどうかは「赤堀涼子の活躍見たさ」が「岩楯を始めとする男性キャラクターへの苛立ち」を凌駕するか否かにかかっていると筆者は思います。個人的に筆者が一番ストレス少なく読めたのは3巻目の『潮騒のアニマ』で、一番ストレスがあったのが7巻目『スワロウテイルの消失点』でした。赤堀涼子が好きになれるならおすすめしますが、ストレスの度合いは巻ごとに異なる、といったところです。

 岩楯を前に出したがるのもそうですが、おそらく作者は男性が好きなんでしょう。7巻は虫の関連性が他の巻よりも比較的低いうえ、赤堀が加害してきた男児をかばうなど本当にちんよし度が強いので私はおすすめしたくない。